昨日の『カンブリア宮殿』は星野リゾートの星野佳路社長が出てた。
ぼくが星野さんを本気で「すげーなあ」と思ったのは数年前のことなんだけど、喫煙者を採用しない宣言をしてたからなんだよね。ぼくも1時間おきにタバコ休憩に出ていく社員に対してイライラしてたから、こういうことを実行に移す経営者ってすごいなあと思ったものです。
もちろんいまでもやってます。
全員が喫煙習慣のない社員で構成するA社と、全員が喫煙習慣のある社員で構成するB社が競争すると、B社は最初から不利な環境に置かれます。人口が減少に転じ、本格的な淘汰の時代に突入し、企業が厳しい競争環境にさらされている時に、わざわざ最初から不利な環境を受け入れるべきではなく、星野リゾートはA社を目指すことで自らを防衛する必要があります。星野リゾートは、顧客にご満足いただき、効率的な運営をすることで競争力を身につけようとしている発展途中の組織です。その構成員である社員の皆さんには、私たちの組織がより有利に戦えるようご協力いただきたいと思っております。
まあ不利の根拠も憶測(というか偏見)なんだけどね。
だって作業効率におけるニコチンの要因なんて一部に過ぎないし(前日に酒を飲んで二日酔いとか、寝不足だって同じくらい影響してるでしょうし)、雑談の多い人が周囲に与える影響もあるだろうし。施設効率なんて頻尿の人がいたらトイレの数を増やすのかって話になるし、職場環境だって同じ。ええ屁理屈です。
ただね、その屁理屈をポリシーとしてきちんと提示することが大事なんだと思います。サービス従事者には理念がなきゃいけない。それは自分たちがどういう人に対して、どんなサービスを提供したいか(できるか)という意思表示をすることで、そもそも万人向けにサービスできないことを認め、特定の方々に選んでもらえるようにする。お客を選ぶんじゃなく、お客に選んでもらえるようになることが重要。
喫煙者を採用するかどうかはそのひとつに過ぎない。
まあブックオフオンラインは社長はじめ喫煙者が多いし、mixbeatも喫煙者だらけなのでぼくの周囲ではこのポリシーは導入しづらいんだけどね。で、それが大きなマイナスになってるかっていうとそうでもない。ぼくがちょっと不快になるくらいで。
問題は喫煙者がタバコ吸ってる時間を働いてない時間と認識してるかで、それは喫煙に限らずトイレでも無駄話でもネットサーフィンでも同じ。そういう非労働時間は誰にでもあるわけで、それが全体としてフェアなのかどうかという話。施設や環境も含め。
非喫煙者に手当を出す会社もあるし(金で納得するのもどうかと思うけど)、このへんはそこで働く人が決めればいい。とはいえ喫煙者は喫煙スペースで休憩しやすくて、非喫煙者が休憩しづらいのは絶対に解決しないといけないと思う。じっさい鬱になる人は非喫煙者のほうが多いようだし。
ただどっかの会社で鬱が増えたからとフロアにダーツを置いたって話があったけど、自分で休憩取れない奴がみんなが働いてる横でダーツなんかできるわけないっての。そういう人の心を無視した福利厚生しかできないから鬱が増えるんだよね。
話を戻して。
軽井沢の「星のや」ではリピーター(ここでは1年以内に再来する人)が21%も占めているそうです。
星野リゾートでは従業員が毎回お客さんごとにメモを残すようにしていて、そのメモを元に次回いらしたときのサービス内容をアレンジするらしい。ま、リッツカールトンとかでも聞く話ですね(ほんとはこういうきめ細やかなサービスこそネット企業に優位性があるし、もっと取り組むべきなんだけど)。
で、番組で紹介していた、過去のメモを元に考えた満足度アップのための作戦というのは最近できたワインショップを見てもらうという単純なものだったんだけど(本当にこれだけ?)。
作戦の評価はさておき、この情報共有のシステムについての話が興味深い。
「日本のホスピタリティは世界でも最高水準にあると思っていて、それは女将という日本のホスピタリティを代表する存在が名旅館にはいたから。 私たちがいまこのシステムでやっているのは、女将がやってきたことをみんなでできるようにしようということなんです。名女将と呼ばれるような人たちは、お客様ひとり一人のちょっとしたクセや好みを自分の記憶の中で把握して、その方がいらしたときにパッと提供することができる。ここを人に属してしまう能力ではなくて、組織やチームの中で継続できる能力に変えていこうという取り組みなんです」(この部分に限らず、セリフ部分は聞き書きなのでニュアンスはあってるけど言葉は多少ちがってます)
この属人的にさせないというのはすごくわかる。まさにぼくもそれをいまやろうとしている。いや、より正確に言うと、スタッフの属人性を発揮させるために、その前提となる情報や道具を徹底的に共有するってことですね。
誰でも高レベルのサービスが提供できる。そのためにはしっかりとしたシステムが必要で、顧客に関するあらゆる情報はそのシステムで管理され、共有されている。そういう前提で、さらにその人ならではのサービスを実現するために自由を与えるのが大事だとぼくは思ってるんだけど、星野さんも同じようなことをおっしゃっていた。
過去47回も宿泊してるリピーターでも気づくことがあるという。そういう(気づくための)トレーニングをしてるのかという質問に、
「この業界で一生懸命仕事している人たちはみんな気づく能力を持っています。問題はそれを実行できる自由度が各スタッフに与えられていないことです。それを実行するためのツール(道具)も与えられていない。私たちのツールのひとつは情報なので、ああいうコンピュータから出てくる過去の情報が手に入る仕組みを作ることも大事。かつ、自分で考えた『オススメの滞在』を自由に提供できる裁量、自由度を職場に与えていくことが大事なんです」
と言っていた。ザッポスに通じる話ですね。
さらにスタッフの成長についてのコメントも共感した。
「お客さまから誉められるということが仕事の醍醐味であり、なんらかの快感物質が出るわけです。この仕事をやっていて良かったという実感が沸いてくる。 一度お客様に誉めていただけると、もっとしてさしあげようという良い循環になっていく。だから成長するんです」
そもそも社員の定着率が悪かったところから改革を始めたらしい。
社員に楽しんでもらうための職場作りとして、自由度が必要と考えたり、ツールの整備をしていったと。先に従業員満足があって、その先に顧客満足があるというのはぼくも真実だと思う。現場が疲弊しててお客さまを喜ばせるわけないので。
もうひとつ。
星野リゾートでは顧客アンケートを回収してるんだけど、満足度は7段階でした。ぼくはけっこうここに驚いた。普通は5段階だからね。できるだけ細かく聞くことで、より詳細かつ正確にお客さんの気持ちを理解しようとしてるんだろう。
- 非常に満足
- 満足
- やや満足
- どちらでもない
- やや不満
- 不満
- 非常に不満
となっていて、「非常に満足」を50%以上にするのが目標だそうです。
このアンケートを元に満足度が低いサービスはどんどん改善していってるんですが、
「こういう情報がないと客観的にものを判断できない」
という発言もテレビを見ながら「その通り」とうなづいていた。
ブックオフオンラインの春のリニューアルも2万件を超えるお客さまのアンケートを全部読んで(もちろんそれ以外の電話やメールの問い合わせも)、そこから改善すべきポイントを絞っていったんだけど、ある程度の規模になったら誰かの主観で物事を決めるのは危険すぎる。スティーブ・ジョブスくらいの天才でもない限りムリ。
(もちろんゼロからイチを創り出すスタートアップは個人の主観で進めないといけなくて、ここでいろんな人の意見を聞くとまず失敗する)
もともとは料理長など周囲の人たちへの説得材料としてアンケートを取り始めたらしいんだけど、自分の感覚を常に顧客にあわせていくためにも大事なことですよね。
そういう目的でソーシャルメディアを使えばものすごく有益なのに、わかってない人が多いんだよなあ。
ちなみに「主観の集合が客観である」というのはある人の言葉だけど、より正しい判断をしようと思えば、できるだけ多くの主観を集めるべきなんですよね。
じつはこの放送は昨日オンタイムで見て、今日この記事を書くためにもっかい見直したんだけど、ほんとに良かった。こういうのこそオンデマンドで売ればいいのに。社内研修で使えるし。
これで最後。
「顧客満足」というのがお題目みたいになっているけど実現できてない企業が多いという話。このへんの村上龍のコメントは毎回鋭くて、勉強熱心な人だなあと感心する。
彼(村上龍)が言うには、顧客満足とはフィロソフィー(哲学)であると。(消費者の言いなりになるのではなく)ある部分では自分たちのポリシーを押し付けることをしないと実現不可能なんじゃないかと言っていて、まさにこれはサービスの本質なんだけど、ほんとすごいね。小説買ってあげようかな。
星野さんの答えは次の通り。
「基本はお客さまの声に応えていくことです。でもその前に自分たちが『どんなリゾートになりたいか』を明確にしなければなりません。私たちはこういうリゾートを理想にしているんだということを掲げて、その範囲の中でお客さまの声を聞くことが大事です」
星のやの客室にはテレビがなくて、それに不満を言う人がいたとしても、非日常な空間を提供するためには聞き入れない(実際にはフロントで貸し出してるのかもしれないけど)。
「聞くべき不満と無視すべき不満を判断できるようになるには、そもそも自分たちが『どういうリゾートになりたいか』が定義されているかどうかでちがってくる」「全員に満足してもらうことは非常に効率が悪いし不可能に近い」
「自分の価値観にあったお客さまを探して、その要望に120%応えていく方向に持って行ったほうがいい」
ぼくもいつも同じような話をしています。全員の希望を叶えてたら会社は潰れます。大事なことは、どんな人たちを相手に、どんなサービスを提供したい(できる)のかを徹底的に追求すること。その人たちにとって必要なこと(多くの場合、利便性)はとことん応えていくけど、それ以外は正直にできないこと(とやる予定もないこと)を伝えて諦めてもらえばいい。
村上龍が、でもそれって勇気がいりますよねって聞いたら、
「勇気がいるけど、それをしなければどこにでもあるリゾートになってしまう」
との答え。そうなんだよね。
で、喫煙者不採用の話に戻ってくるわけです。
自分たちのポリシーや価値観をしっかり定めた上で、そこに賛同してくれる人たちに全力でサービスする。その考え方が採用にまできちんと徹底されているところに星野リゾートのすごさを感じたし、ぼくも学んでいかないといけないなと気合いが入った。
この番組、ほかにも見た人いるかなあ。再放送したらいいのに。
星のやと加賀屋は一度泊まりに行かなきゃなと思ってます。今年のうちにどっちかには行く。星のやは嵐山にすごいのができてるしね。
[追記]
「おかえりなさいませ」と迎えるのは、なんかメイドカフェみたいだからちょっとね。
[追記の追記]
日本の観光産業がうまくいってないのは成田から観光地へのアクセスが悪いからなので、そこは国がしっかりしなきゃいけない。















コメント(10件)[コメントだけのRSS]
私もこの番組を見ました。星野リゾートには確かにザッポス的なところがありますね。星野さんも、「顧客満足は社員満足から始まる」と言っていますが、私は、社員満足はリーダーの意思改革から始まると思います。そして、その社員満足にしても顧客満足にしても、物理的なことが基本ではなくて、意思(思いやりとか、思いやりをアイデアにして実行する意思)が基本となるものだと思います。それは、まったくお金がかからない革新ですね。企業の規模とか資本力に関わらず、誰でも実行できる、ということを再認識させてくれる番組でした。
投稿者: 石塚しのぶ | 2010年2月 3日 09:54
石塚さんも見られてたんですね。
ITに代表される「技術」をちゃんとツール(道具)であると正しく認識して、それを「サービス」のために徹底的に使う――そういうことができるのはまさにリーダーの意志ですね。
スタッフひとり一人が考えるべきはお客さまのことであり、どんなサービスを提供するかであって、そこに集中させてあげるためにシステムがあるという、当たり前の考え方ができている企業がいかに少ないかということでもあります。
まずはリーダーの強い意志から始まるというのはよくわかります。こういう番組を企業のトップがちゃんと見て、何かを感じてくれればいいんですけど。
投稿者: 河野
|
2010年2月 3日 10:24
なかなかいい話題を教えてもらいました。
かつてはさびれた星野温泉でしかなかったんですけどね。今では再生屋としても全国広く活躍されてますね。
投稿者: ムムリク | 2010年2月 3日 10:33
古本屋のトップが「小説買ってあげようかな」とは、これだけで利用する気をなくしますね、ブックオフオンライン。
投稿者: 匿名 | 2010年2月 3日 11:22
>ムムリクさん
ほんとによかったです。『カンブリア宮殿』は当たり外れがあるんだけど、当たりの回もちょいちょいあるので他の番組よりもいいですね。
最近は『プロフェッショナル』は見なくなっちゃったので。
>匿名さん
どうしてですか? ここ数年ほとんど小説を読んでないぼくが買おうかなと思ったのが、どうして利用する気を失わさせるのかがさっぱりわかりません。
(村上龍の小説は何冊か読んだことありますが、ここ数年は1冊も読んでません)
投稿者: 河野
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2010年2月 3日 14:08
見ました。ぼくもブログエントリしました。星野社長のようなビジョナリー経営者は日本では数少ないですが、ギラッと輝いてますね。いまの時代、万人ウケを狙ってもダメで、白黒はっきりさせることが大事だなと思います。ちなみにsmash(mediaが付かない)の日高さんにも、似たような匂いを感じます。あのフジロックフェスの仕掛け人ですね。確固としたビジョンを掲げてそれに共感してくれる客に最高の「遊びの場とツール」を提供するという意味で。河野さんのポストを読んで非常に細かいところまで記憶が覚醒してまた勉強になりました!感謝です
投稿者: zosojh | 2010年2月 3日 15:01
僕も、リアルタイムで見ました。
当たり前(本などによく書かれているという意味で)のことを愚直なまでに実行していることに驚きました。そして、それをやり続ければ結果が出るという勇気ももらいました。あと村上龍さんの質問は毎回感心します。ゲストやその企業について真剣に勉強し、消化して臨まないとできない芸当だなと。村上さんの司会、星野さんの経営ともに同じ態度を感じます。
投稿者: inparallelwith | 2010年2月 3日 15:13
>zosojhさん
コメントありがとうございます。「いまの時代」という区切りが正しいのかさえぼくにはわからないのですが、ぼくが社会に出た頃(15年前)にはすでに多様化や差別化が問われていたと思います。要はやってたかやってないかってだけで。星野さんはやってたと。
ああいう人と仕事するのは大変だと思うんですが、いろいろ成長できそうではありますね。
>inparallelwithさん
リアルタイムで見られてたんですね。村上龍はほんとによく勉強されてるなあと毎回感心します。
あれは台本じゃなくて、彼が本当に疑問に思ったことだし(ベースとなる知識もしっかりあるので)いい質問をしてくれてますよね。
「いい答えがほしかったら、いい質問をしろ」という言葉を思い出しました。
投稿者: 河野
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2010年2月 3日 18:30
>再放送
日系CNBC(CSチャンネル)だと『ガイアの夜明け』同様、再放送があるみたいです。
http://www.nikkei-cnbc.co.jp/program/cambrian/
>村上龍
社会人デビューした最初の上司から「これを読め」っていわれた本のリストの中にあって一時期ハマりました。龍さんの小説は読む人のメンタル具合で、あの「執拗な情景描写」が心地よい時と面倒くさいときとありません?w
投稿者: zomzom1974 | 2010年2月 5日 01:43
あーCSだと再放送してますね。
投稿者: 河野
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2010年2月 5日 09:38