「そんなんじゃクチコミしないよ。」がどういう本かについては、「はじめに」を読んでもらえればわかると思います。出版社の了承を得られたので、ここに公開します。
はじめに
どうやらぼくはぶっちゃけてしまう人間のようです。
初対面の方から「ブログをいつも読んでます。でも、あそこまでぶっちゃけていいんですか?」というようなことをよく言われます。彼らが言うには、ぼくのブログ「smashmedia」は他の人が遠慮して言えないことを書いていて、それが爽快みたいです。ぼく自身は特別それを意識しているつもりはないのですけどね。
誰も言わないからといって、それが正しいとは限りません。みんなが黙っているから、自分も発言しないのは違うんじゃないでしょうか。「王様は裸だ」と誰も言わなくても、ぼくは気づいたら言います。ただそれだけのことです。ぼくはそんなブログを2003年から書いていて、去年は年間千本以上の記事を書いてきました。
というわけで、この本はいわゆる「ブログ本」です。ぼくが約一年にわたって書き上げたインターネットのこと、マーケティングのことがまとまっています。
これまでぼくはブログ本に価値はないと思っていました。インターネットでは無料で読めるものをわざわざ書籍にして、販売する意味があるのかと思っていました。でも今回の出版を通じて、特にぼくのブログのようにテレビの話やアイドルの話が半分を占めてるような雑多なブログの場合は意味があると感じました。編集って素晴らしい。
この本はぼくが日々思いつくままに書いていたブログから真面目な記事だけを抜き出して(つまり芸能ネタなどを排除して)さらに、関連する話題同士をまとめたりして読みやすく編集してあります。ブログ本は編集次第でこんなにも読みやすくなる好例だと言ってもいい。よろしければ一度ぼくのブログと読み比べてみてください。信じられないくらい、書籍のほうが読みやすいですから。
この本のテーマは「最新のネットマーケティングについて」です。特に「ネットクチコミ」ブームのことをたくさん取り上げています。ここ数年「ウェブ進化論」や「テレビCM崩壊」といった書籍がヒットし、「Web2.0」という言葉が流行したのは記憶に新しいところではないでしょうか。そんな背景もあって、インターネット万能論を多くの人が唱えています。
はっきり言います。そんなものは夢物語です。ウソと言ってもいい。この本でもいくつかの事例を取り上げて(そして斬り捨てて)いますが、起こってもいないブームや業界内だけの成功事例がひとり歩きしているに過ぎません。
ぼくは2006年から2007年まで「WOM勉強会」という勉強会を主催していました。WOMとは英語のWord Of Mouse の略で、日本語の「クチコミ」と同じです。ぼくがこのWOM勉強会を作ろうと思ったのは、
- これからはネットクチコミだと煽ってる人たちがいるけど、クチコミそのものは別に新しくもなんともない。でもクチコミが起こる原理についてはよくわからないから、いずれ学問として研究対象になるように事例を集めて知見を共有する場があったほうがいい
- ネットクチコミって、一記事いくらの報酬ありきでブログに書かせるサービスばっかりでどうにもうさんくさいし、あんなやり方じゃ企業のマーケティングに効果が出ないばかりか、世の中のブログがゴミ記事だらけになってつまらなくなるからそれは断固阻止したい
というふたつの動機によるものでした。前者は十年近くネット業界でマーケティングを仕事にしている者として、後者はブログの会社にいる(もう過去形ですが)人間として思ったことです。
この勉強会で、ぼくたちは国内外のネットクチコミについて事例を共有したり、そもそも「なぜクチコミが起こるのか」という人間の行動心理メカニズムについて議論を重ねてきました。そしてクチコミというものはしょせん結果に過ぎないということがわかりました。話題になりやすい仕掛けを計算することはできますが、その先は神のみぞ知る領域なのです。にもかかわらず、クチコミを起こせると豪語する代理店はたくさんいます。
どうかみなさん、ダマされないでください。むやみに危機感を煽り、あなたたちをダマそうとする名ばかりの有識者はどんどん湧いて出てきます。そのバブルに乗っかり、みなさんから広告費を吸い上げる代理店もあとを絶ちません。
「インターネットはすごい」「これからはネットクチコミだ」......そういう記事を見つけると、ぼくはいつも複雑な気持ちになります。インターネットの可能性はぼくも信じているのに、彼らは何ひとつわかっていないからです。だから自分のブログで「これは違うよ」と言及します。そんな記事がこの本にも多数収録されています。読者からはぶっちゃけていると言われるんですけどね。おもしろいもので、ある部分を隠してしまえば、どんなものでもバラ色に見えます。でも大事なことは、その隠している部分なのです。それはインターネットにしても、ネットクチコミにしても同じで、礼賛している人たちが隠している真実に目を向けなければなりません。
「インターネットは良くも悪くもそんなもの」という言葉がこの本の中にも登場します。この本を読むことで、インターネットの「適正価値」をより多くの方に理解していただくことができれば、著者として何よりの喜びです。
またこの本では、最新のネットマーケティング事情について取り上げていますが、そのきっかけは多くのブログ執筆者によるものです。彼らのブログが常に刺激を与えてくれたからこそ、一冊の本になるだけの記事を書くことができました。ここに心からお礼を申し上げます。
最後に。
この本の編集を担当してくれた寺内さんに心から感謝します。こういうところに謝辞を書く著者の気持ちが今はとてもよくわかります。生来のぐうたらで「めんどくさい」が口癖のぼくが、こうして本を出せたのは彼がいたからです。
そんな彼との出会いも思い返せばブログでした。ブログっていいな。東京、恵比寿の自宅にて、月9のビデオを見ながら
河野武
書店で手に取って立ち読みしてから買ってもいいので、一度読んでみてください。この「はじめに」で書いたとおり、ブログよりもぜんぜん読みやすくなってます。
実際は「おわりに」も書いてるんだけど、それは読んでのお楽しみということで。
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